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2009年2月5日

簡単・エコ・安価な次世代電子デバイスを開発した研究者

理研基幹研究所に、とても簡単で、しかもエコで安価な方法で、プラスチックの基板上に有機半導体トランジスタをつくった研究者がいる。機能性有機元素化学特別研究ユニットの三成剛生(みなり たけお) 基礎科学特別研究員だ。これまでトランジスタなどの電子デバイスは、シリコンのような無機材料を使用し、リソグラフィーでつくるのが主流だった。無機材料を有機材料に替えると、プラスチックなど折り曲げ可能な材料を基板に使用できるので、多様な使い道がある。そのため、有機半導体デバイスは次世代の電子デバイスとして注目を浴びている。今回、開発したのは「有機半導体の溶液を基板上に塗るだけで、分子が自己集合してデバイスを形成する」という独自の画期的な方法だ。ミステリー小説を愛読し、ギャンブルも嗜(たしな)むという三成研究員の素顔に迫る。

三成剛生基礎科学特別研究員

三成剛生 基礎科学特別研究員

基幹研究所 機能性有機元素化学特別研究ユニット

1974年11月27日、島根県生まれ。島根県立松江南高校から1994年、東京大学教養学部へ進学。1999年、某印刷会社入社。2006年、京都大学理学研究科化学専攻博士後期課程修了。2006年、理化学研究所基礎科学特別研究員。

開発した有機半導体トランジスタアレイと素子の拡大図

写真:開発した有機半導体トランジスタアレイ(a)と素子の拡大図(b)

基板がプラスチックのため折り曲げることもできる。

「小学生のとき、将来の夢は小説家か科学者でした」と語る三成研究員。だが、中学・高校のときは遊んでばかりだったという。「高三の夏休みになって、やっと受験勉強を始めたんです。問題集を読み、なぜこんな問題を出すのか、出題者の裏を読んでいました。問題を解くより、つくる方が面白かったですね」。1年浪人した後、東京大学へ。「アーチェリー部に入りました。当時の友達とは今でも仲がいいんですよ。あと、スロットにハマっていましたね(笑)」。卒業後は印刷会社に入社。「製品の収率を上げ、不良品を減らす仕事をしていました。不良品を減らすには、製造ラインを変えるドラスチックなアイデアが必要。入社1年目から全国各地の工場に転勤しましたが、提案したアイデアが認められ、仕事の醍醐味(だいごみ)に目覚めました。面白かったですね」。1年経過後、最初の勤務地である研究所へ。「ほかのこともやってみたいという気持ちが強くなり、大学院に行こうと考えるようになりました」

入社2年で退職し、京都大学大学院へ。会社での仕事のやり方と、アカデミックで要求される考え方がまったく違うため、苦労することになった。「会社では今つくっているものを良くするという考えでしたが、研究は新しいコンセプトを考え出さないと意味がなかったんです。でも、両方を経験して視野が広がりました。学業の傍ら生活費も学費も稼いでいたので、とても忙しかったですね。インターネットショップを経営して鮮魚を販売したりしていました。そのうち、このサイドビジネスが本業になりそうなくらい繁盛したのでやめました(笑)」。成功の秘訣(ひけつ)は?「世の中で何が求められているか、着眼点が良かったんだと思います。研究と一緒ですね」

博士課程を修了した後、理研へ。「印刷会社に勤めているときから、今後発展しそうな分野として有機デバイスに注目していたんです。今回、開発した有機半導体トランジスタ(写真)のつくり方は、まずプラスチック基板上に疎水性と親水性の部分をつくり、その上に有機半導体溶液を塗ります。塗った溶液は親水性の部分だけに付くので、溶媒が蒸発すると、思い通りの形状で有機半導体の薄膜ができます。この方法を応用して、塗布法で有機トランジスタ素子の自己形成に成功したんです」。このテーマは大日本印刷(株)と共同で取り組み、すでにトランジスタ素子として実用化レベルにまで達している。「印刷技術と同じ方法なので、従来技術と比べて簡単で省エネ。トランジスタになる部分だけに材料を塗るので無駄もない。エコで安価な方法です。軽くて軟らかいので、表面にタッチして注文する電子カタログやメニューなどにも使えます。より身近で生活に密着したデバイスですね」。最後に「また新しいことに挑戦したい」と語った三成研究員。次はどんな成果で私たちを驚かせてくれるのだろう。

※この研究成果は平成19年度研究奨励ファンドに採択された課題によるものです。研究奨励ファンドは、若手の意欲的な研究を奨励することを目的とし、理研基幹研究所・理研仁科加速器研究センター・理研放射光科学総合研究センターで横断的に実施している理研の所内ファンドです。

『理研ニュース』2009年2月号より転載