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2012年11月5日

より深くをより鮮明に見るために光を操る研究者

理研基幹研究所に、光を操作し、生体試料のより深いところをより鮮明に見る技術を開発している研究者がいる。高強度軟X線アト秒パルス研究チームの磯部圭佑研究員だ。可視光より波長が少し長い近赤外光を用いた非線形光学顕微鏡を使うと生体試料の深部を観察できる。しかし、表面から 200μmより深くなると、背景光と呼ばれる集光点以外の光が明るくなり,解像度が悪くなってしまう(図左)。磯部研究員は、二つのフェムト秒パルスレーザーの一方を集光点に固定し、もう一方を移動させる新手法「SPOMNOM (スパムナム)」を開発。背景光を抑えて従来の約1.5倍の深さまで高解像度で観察することに成功した(図右)。この成果により、レーザー学会優秀論文発表賞、コニカミノルタ画像科学奨励賞、先端フォトニクスシンポジウム人気ポスター賞などを受賞。磯部研究員は言う。「自分でアイデアを出し、世界で誰もやっていないことをやる。それだけは譲れません」

磯部圭佑研究員

磯部圭佑 研究員

基幹研究所 高強度軟X線アト秒パルス研究チーム

1978年、兵庫県生まれ。博士(工学)。私立清風高校卒業。大阪大学工学部応用自然科学科卒業。大阪大学大学院工学研究科物質・生命工学専攻博士課程修了。2007年より理研緑川レーザー物理工学研究室 協力研究員。2012年より現職。

マウスの脳組織の神経細胞の深部観察画像の比較

図:マウスの脳組織の神経細胞の深部観察画像の比較

「子どものころは、レゴブロックやプラモデルが大好きでした」と磯部研究員。勉強は?「国語と社会が嫌い。暗記が苦手で、これを覚えて何になるのだろうと思ってしまうのです。基本を知っていれば考えて問題が解ける算数と理科が好きでした。でも、勉強には興味がありませんでしたね」

高校卒業後、1998年に大阪大学工学部の応用物理学コースに進学。「光に興味があり、そのコースには光学の研究室がたくさんあると知っていたのです。相変わらず勉強はしませんでしたが、実験は楽しくて一生懸命やりました」
4年生になり、念願の光学の研究室へ入った。「レーザー加工の研究をやろうと思っていたのですが、指導教官の伊東一良先生が“生体分子を色で見分ける顕微鏡をつくる”と言いだし、面白そうなので私も加わりました。ところが、先生も顕微鏡の開発は初めて。自分が頑張らなければ、と必死に勉強しました。部品を買ってきて顕微鏡を組み上げていくのですが、もともとプラモデルが好きだったので毎日とても楽しく、迷わず博士課程まで進みました」

大学院修了後の2007年、理研の緑川レーザー物理工学研究室へ。「新しい技術を学びたいと思ったのです。緑川研究室では試料に光をそのまま当てて見るだけでなく、光を操作して今まで見えなかったものを見ようという研究をしていました」。当初は須田亮 研究員と非線形光学分光法の研究を進めていたが、須田研究員が東京理科大学へ異動した2010年から新しいテーマに取り組むことになった。
「理研脳科学総合研究センターの研究者から“今より100μmでも深いところを高解像度で見ることができれば研究の世界が大きく変わる”と聞き、それをやろうと決めました」と磯部研究員。「二つのフェムト秒パルスレーザーを使う方法はすでにありました。通常、安定した信号を測定するには、二つのレーザーの集光点がずれないようにするでしょう。私は、一方を集光点に固定し、もう一方を移動させる方法“SPOMNOM”を開発しました。この方法では集光点からの信号光だけに“揺らぎ”が発生します。その揺らぎを検出して解析したところ、従来より約1.5倍深い300μmまで鮮明に観察することができました(図)。逆転の発想です。これができたのは、緑川克美チームリーダーが失敗を恐れずにチャレンジできる環境をつくってくれているからです。測定に時間がかかることが問題でしたが、1000倍高速化するめどが立ちました。神経細胞や免疫の研究にぜひ使ってもらいたいですね」

影響を受けた人は?「一人は須田研究員。研究に対する姿勢を学びました。須田研究員のように、何歳になっても自分で手を動かして実験をしていきたい。もう一人は伊東先生。自分で考えることの大切さを学びました“どうせやるなら世界一”と言ってくれたのも伊東先生です」
磯部研究員には温めているアイデアがある。「光は、見るだけでなく操作もできます。体内を巡りながら観察し、病変があればレーザーで治療する。そんな超小型光学顕微鏡を開発したいですね」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2012年11月号より転載