広報活動

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2018年9月21日

理化学研究所
明治薬科大学
龍谷大学
京都大学

バイオマスから油脂を生産する新種の酵母を発見

-油脂製造プロセスの効率化と低炭素社会の実現に貢献-

理化学研究所(理研)バイオリソース研究センター微生物材料開発室事業推進ユニットの高島昌子ユニットリーダー、大熊盛也室長、明治薬科大学微生物学研究室の杉田隆教授、龍谷大学農学部の島純教授、京都大学大学院農学研究科の谷村あゆみ特定研究員らの共同研究グループは、バイオマス[1]由来の発酵原料糖の主成分を成す2種類の糖から効率良く油脂を生産する新種の酵母を発見しました。

本研究成果は、油脂製造において石油からバイオマスへの原料の転換を進め、製造プロセスの効率化による消費エネルギーの削減に向けた研究を促進することで、低炭素社会の実現に貢献すると期待できます。 油脂は食品、医薬品、化成品の原料となることから、化学工業における基幹物質の一つです。現在、油脂の多くは石油から化学的に合成されていますが、温室効果ガス抑制の観点から、酵母などの生物を用いた新たな油脂生産プロセスの開発が求められています。今回、共同研究グループは、沖縄県西表島などの植物と土壌から分離した酵母から、バイオマス由来の発酵原料糖であるグルコース[2]キシロース[3]をほぼ同時に取り込み(グルコース抑制[4]がない)、油脂を効率良く生産する酵母3株を発見しました。この酵母は、系統解析や分類学的研究の結果、Cystobasidium属に属する新種であることが示されたため、「Cystobasidium iriomotense」と命名しました。

本研究成果は、米国のオンライン科学雑誌『PLOS ONE』(9月12日付け:日本時間9月13日)に掲載されました。

※共同研究グループ

理化学研究所 バイオリソース研究センター
微生物材料開発室 事業推進ユニット
ユニットリーダー 高島 昌子(たかしま まさこ)
室長 大熊 盛也(おおくま もりや)
開発研究員 遠藤 力也(えんどう りきや)

明治薬科大学 微生物学研究室
教授 杉田 隆(すぎた たかし)

龍谷大学 農学部
教授 島 純(しま じゅん)

京都大学大学院 農学研究科
特定研究員 谷村 あゆみ(たにむら あゆみ)
教授 小川 順(おがわ じゅん)
准教授 岸野 重信(きしの しげのぶ)

※研究支援

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)、および日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究 「One Fungus One Nameに対応した酵母の分類体系の完成(研究代表者:高島昌子)」の支援を受けて行われました。

背景

油脂は食品、医薬品、化成品の原料となることから、化学工業における基幹物質の一つです。現在、油脂の多くは石油から化学的に合成されていますが、温室効果ガス抑制の観点から、バイオマスや微生物を活用した油脂の生産プロセスが求められています。

酵母は糖を取り込み、変換を行うことで、油脂を含むさまざまな化合物を生産します。また、酵母は微細藻類や糸状菌などの他の油脂生産微生物と比較して増殖が速く、高い生産性が見込めます。しかし、一般的に酵母は発酵原料糖の一つであるキシロースを利用できなかったり、また利用できても利用効率が低かったりするため、生産時間の長期化や未利用キシロースの残存を招くことが問題となっていました。発酵原料糖とは、バイオマスを分解して得られる物質のうち、微生物が取り込むことのできるグルコースやキシロースといった糖のことです。この問題を解決するため、これまでは遺伝子組み換え技術が用いられてきました。

一方、理研バイオリソース研究センター微生物材料開発室事業推進ユニットの高島昌子ユニットリーダーと明治薬科大学微生物学研究室杉田隆教授の共同研究グループは、沖縄県西表島と北海道利尻島の植物と土壌から酵母1,021株を分離し、日本の微生物資源の多様性を示しました注1)

これらの酵母を用いて、京都大学大学院農学研究科の谷村あゆみ特定研究員らは発酵原料糖の糖組成に着目し、油脂を生産する酵母のスクリーニングを行ってきました。その結果、グルコースのみを取り込んで油脂を生産する酵母注2)、グルコース-キシロース-アラビノース[5]の混合糖を取り込む酵母注3)、デンプンを直接取り込む酵母注4)を選び出してきました。

今回、共同研究グループは理研と明治薬科大学が分離した酵母の中から、グルコースとキシロースを同時に取り込み、効率的に油脂を生産する菌株を探索しました。

注1)2012年12月13日プレスリリース「南北に長い日本の酵母の種の多様性を明らかに
注2)Tanimura A et al. Selection of oleaginous yeasts with high lipid productivity for practical biodiesel production. Bioresour. Technol. 153: 230-235 (2014).
注3)Tanimura et al. Lipid production through simultaneous utilization of glucose, xylose, and l‑arabinose by Pseudozyma hubeiensis: a comparative screening study. AMB Expr 6:58 (2016).
注4) Tanimura et al. Cryptococcus terricola is a promising oleaginous yeast for biodiesel production from starch through consolidated bioprocessing. Sci. Rep. 4: 4776. (2014).

研究手法と成果

共同研究グループは、バイオマス由来の発酵原料糖に多く含まれるグルコースとキシロースを主な炭素源とする培地(GX液体培地)を用いて、沖縄県西表島などの植物と土壌から分離した酵母を培養しました。その結果、グルコースとキシロースを効率的に取り込み、油脂を生産する酵母3株を発見しました。系統解析や分類学的研究の結果、この3株はCystobasidium属に属する新種であることが示されたため、採集地である西表島の名を取って「Cystobasidium iriomotense」と命名しました(図1)。

次に、油脂生産能力の高い株が報告されている近縁の菌株(Cystobasidium slooffiae JCM 10954)を比較対象として、GX液体培地を用いて培養を行い、糖の取り込みを経時的に調べました。その結果、Cystobasidium iriomotenseはグルコースとキシロースをほぼ同時に取り込み、10日間で培地中の糖をほぼ全て取り込みました。これに対してCystobasidium slooffiae JCM 10954は、投入した糖の約3分の1しか取り込めませんでした。

また、油脂含量(乾燥菌体重量あたりの油脂の割合)についても調べたところ、Cystobasidium iriomotenseは最高で約33%に達した一方、Cystobasidium slooffiae JCM 10954では約15%にとどまりました。

これまで、酵母はグルコースとキシロースの両方が存在する場合、グルコースを優先的に取り込み(グルコース抑制)、キシロースはグルコースがほとんど取り込まれた後に取り込まれ始めるため、キシロースの利用効率が低く油脂生産に時間がかかるとされてきました。しかし、今回発見したCystobasidium iriomotenseはグルコースとキシロースをほぼ同時に取り込むため、油脂の生産性が高いことが明らかになりました。(図2

今後の期待

微生物を利用した油脂生産には、バイオマス由来の発酵原料糖に多く含まれるグルコースとキシロース両方の利用効率が重要です。

今回発見したCystobasidium iriomotenseは、グルコースとキシロースから油脂を効率的に生産することが明らかになりました。これにより、各種発酵原料糖に対応して、油脂生産に最適な株を選択できることが分かりました。本研究成果により、油脂製造において、石油からバイオマスへの原料の転換や製造プロセスの効率化による消費エネルギーの削減に向けた研究が進み、やがて温室効果ガスの排出を抑制する低炭素社会の実現につながると考えられます。

原論文情報

  • Ayumi Tanimura, Takashi Sugita, Rikiya Endoh, Moriya Ohkuma, Shigenobu Kishino, Jun Ogawa, Jun Shima and Masako Takashima, "Lipid production via simultaneous conversion of glucose and xylose by a novel yeast, Cystobasidium iriomotense", PLOS ONE, 10.1371/journal.pone.0202164

発表者

理化学研究所
バイオリソース研究センター 微生物材料開発室 事業推進ユニット
ユニットリーダー 高島 昌子(たかしま まさこ)
室長 大熊 盛也(おおくま もりや)

明治薬科大学 微生物学研究室
教授 杉田 隆(すぎた たかし)

龍谷大学 農学部
教授 島 純(しま じゅん)

京都大学 大学院 農学研究科
特定研究員 谷村 あゆみ(たにむら あゆみ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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龍谷大学 学長室(広報)
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京都大学 総務部広報課 国際広報室
Tel: 075-753-5729 / Fax: 075-753-2094
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理化学研究所 産業連携本部 連携推進部
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補足説明

  1. バイオマス
    化石燃料を除いた再生可能な生物資源の総称。
  2. グルコース
    6個の炭素原子を含む糖。植物の構成要素であるセルロースを分解すると得られる。ブドウ糖とも呼ばれる。
  3. キシロース
    5個の炭素原子を含む糖。植物の構成要素であるヘミセルロースを分解すると得られる。
  4. グルコース抑制
    カーボンカタボライト抑制ともいう。発酵原料糖中に含まれるグルコースが、キシロースなどの他の糖の取り込みを抑制する現象。
  5. アラビノース
    5個の炭素原子を含む糖。植物の構成要素であるヘミセルロースを分解すると得られる。

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グルコースとキシロースを効率的に取り込み油脂を生産する酵母の図

図1 グルコースとキシロースを効率的に取り込み油脂を生産する酵母

西表島および利尻島から分離した各種酵母。この中から、グルコースとキシロースを効率的に取り込み、油脂を生産する新種酵母「Cystobasidium iriomotense」を発見した。写真は3株のうちの2株。

Cystobasidium iriomotenseとグルコース制御のある株の糖取り込みの差の図

図2 Cystobasidium iriomotenseとグルコース制御のある株の糖取り込みの差

左のCystobasidium iriomotense(グルコース制御なし)では、グルコースとキシロースがほぼ同時に取り込まれ、菌体に油脂が蓄積される。右のグルコース制御能がある株では、グルコースが取り込まれた後にキシロースが取り込まれ始めるため、油脂生産に時間がかかる。

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